久保利明
経歴
1986年に行われた小学生将棋名人戦ではベスト4進出という結果を残した。
同年に奨励会に入会し、1993年17歳で四段プロデビュー。
棋風
現代振り飛車党で軽く捌く将棋と粘り強さが特徴。先手石田流、後手ゴキゲン中飛車の二刀流で現在唯一のA級振り飛車党。また駒を華麗に捌く姿に「捌きのアーティスト」という異名取る。また三間飛車、石田流の分野での研究などよく知られ、三間飛車へのこだわりも感じ取れる。
印象に残った一局
1995年3月30日オールスター勝ち抜き戦 加藤一二三VS久保利明
加藤一二三は対振りに対して棒銀を使うことで有名です。
本局は急戦における居飛車側の棒銀による抑え込み、振り飛車の捌きなど急戦における戦い方のエッセンスが詰まっており、ぜひ盤に並べて見ていただきたい。
先手 加藤一二三 VS 後手 久保利明
初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩
▲2五歩△3三角 ▲4八銀 △4二飛
▲5六歩 △6二王▲6八玉 △7二銀
▲7八玉 △7一王 ▲5八金△3二銀
▲6八銀 △9四歩 ▲9六歩 △5二金
▲3六歩 △8二王 ▲5七銀 △1二香
急戦の基本図、ここから居飛車は鷺宮定跡などを目指す▲3八飛など様々な指し方がある。居飛車はここから棒銀を目指していく。
▲6八金 △5四歩 ▲3七銀 △4三銀
▲2六銀△3二飛▲4六歩 △6四歩
▲3五歩 △6五歩
久保流△6五歩で捌きの急所の手。▲6四桂など将来的に打たれる隙はあるものの△6四角やこちらから△6四桂と打つ手など手が広がる意味があり、棒銀相手だけでなく斜め棒銀などにも使える手筋で覚えておきたい。
▲3八飛 △4五歩 ▲3三角成 △同 飛
定跡はこの局面から▲3四歩△同銀▲2二角△3五歩という進行が一例だが、先手の加藤九段は変化した。
▲4五歩 △3五歩▲4八飛 △3四銀
▲2二角打 △6三飛▲4四角成 △4三金
△4三金と上がる手に変えて、△4三銀のほうが形はいいが、▲7五馬と引かれ次の▲4四歩が厳しく、抑え込まれる形になるので手厚く金で受ける。
▲2二馬 △4七歩打 ▲同 金 △3三桂
▲4六金△4五桂 ▲同 金 △5九角打
▲2八飛 △4五銀▲5八金 △3八金打
△3八金に変えて、角が死んでいるので△2六角成と切りたくなるが、急戦では丁寧な差し回しが大事で重いようでも△3八金が好手、金銀交換に持ち込み馬を作る。
▲同 飛 △2六角成▲9五歩 △4九銀打
▲2八飛△5八銀成 ▲同 飛 △3六馬
▲2八飛 △5八金打▲6八金打 △同 金
▲同 銀 △6六歩
振り飛車の左桂が捌け、△6六歩で飛車にも喝が入りすでに振り飛車十分な形。居飛車は玉形が薄く後手陣に対して攻める手掛かりもなくつらい局面だ。
▲同 歩 △5六銀 ▲9四歩 △9二歩打
▲2三馬△6七歩打 ▲同 銀 △5七銀成
▲3七金打 △4四金
3六の馬取りを放置しての4四金が決め手で振り飛車勝勢になった。
遊んでた金を攻めに参加させつつ、遠く飛車6三の飛車が馬取りにも当てている一石二鳥の手。
▲1二馬 △4五馬 ▲同 馬 △同 金
▲6九香打△3六歩 ▲7五桂打 △3三飛
▲4七金 △同 成銀▲3四歩打 △4三飛
▲5三歩打 △4六角打 ▲1八飛
▲1八飛はいかにもつらい形。振り飛車はいかに寄せるかというところ。ここでも自玉は安全なので丁寧に寄せていきたい。△5三飛と歩を払うゆっくりした手も十分視野に入る。棋風が現れそうな局面。
△7九金打 ▲7七玉 △8九金▲5二銀打
△5三飛▲6一銀成 △同 銀 ▲6五角打
△7四歩 ▲同 角△8四金打
△8四金とがっちり受けて盤石の構え。また先手玉が上部に逃げ出した時の抑えにもなっている。
▲4一角成 △8五桂打▲同馬 △同 金
▲8六歩△8四金 ▲6五桂打 △4三飛
▲5二歩打 △7九角成▲5一歩成
△8八角打▲8七玉 △9九角成 ▲6一と
△8八馬 先手投了
以下は簡単な詰み、終盤は一方的だったが、序盤の棒銀対策の久保流4五歩がやはり優秀だったからだと感じる。
館長コメント
藤井猛、鈴木大介と共に振り飛車御三家と呼ばれる。三間飛車の定跡の発展にも貢献しており早石田を蘇らせた棋士の一人で、棒金に対する久保流の対策(桂馬を跳ねるタイミングを遅らせる)が優秀で定跡化している。また、二手目△3二飛戦法(今泉健司考案)も発展させるなど序盤研究にも定評がある。また、終盤の粘り強さ、メンタルの強さは学ぶべきだと感じた。