将棋大図書館

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2019年に将棋界で流行った戦法を振り返る

今年も残りわずか、新元号が令和に代わり今年の将棋界の戦法の移り変わりも目まぐるしく変わりました。

居飛車

角換わり~居飛車の最前線~

去年に引き続き角換わりが相居飛車のトレンドです。特に先手後手問わず、4八金2九飛型の同型がほとんどです。

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この局面後手の指し手が広く、

1、千日手を目指す△5二玉~4二玉や△6三銀~5四銀の繰り返し

2、△6五歩からの先攻

3、△4四歩や△3一玉の自然な進行

などが主な後手側の対策でしたが新たな後手の作戦が出てきました。

 

後手が端歩を取らせる形

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上図のように端歩の位を取らせて、後手から積極的に動いていく将棋が多くみられました。ただ端歩を詰められており、端攻めができない点をどう見るかという感じです。

先手、銀矢倉組み換え

後手の千日手含みの指し方に先手も苦労しており、先手も試行錯誤の結果新しい作戦が生まれました。

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後手側の待機方法は様々ですが、ここから先手は銀矢倉に組み替えます。

 

▲6七銀△2一飛▲5六歩△4二玉

▲5九飛△3一玉▲5五歩△4三銀

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銀矢倉に組み替えた後、5筋を伸ばして後手の銀を追い返すのが真の狙いです。ここから▲5六銀~▲4五歩と進めば5筋の歩を突いて自陣は弱体化しますがここから千日手打倒を目指していけます。

相掛かり~温故知新、最新形と古い形~

角換わりの次に採用率が高く、角換わりと違い様々な戦法が指されておりバラエティーに富んでいます。

▲3八銀▲3七桂

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相掛かりでは細かい形の違いがありますが、その中でも採用率が高いのが▲3八銀▲3七桂のオーソドックスな陣形から攻めていく将棋です。端歩の関係や玉の位置などの工夫のし甲斐があり、多く見られました。

 

角頭歩保留

また先手相掛かりでは後手からの飛車先の歩交換に対して角頭を受けない指し方が流行しました。角頭の歩さえも攻撃に使ってしまう超攻撃な戦法です。

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上図で△8六歩の垂らしには▲6六角△8二飛▲8八銀の受けを先手は用意しています。

 

△3四歩▲2四歩△同歩▲同飛

△2三歩▲2五飛

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▲2五飛と引くのが角頭歩保留で頻出する飛車の引き場所で相性のいい形です。

上図から先手は角頭に歩を打っていないことを最大限利用し攻めていきます。

 

△7四歩 ▲8五歩 △8二飛 ▲2四歩

△同 歩 ▲同 飛△8五飛 ▲7七桂

△8三飛 ▲6五桂 △6四歩 ▲2二角成

△同 銀 ▲5五角 △2三歩 ▲3四飛

△3三銀 ▲6四飛△8九飛成 ▲4五桂

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 数十手進んで上図となり、左右の桂を中央に跳ねだした先手が優勢です。このような展開は角頭歩保留の理想的な展開で主導権を握りやすい戦法です。

横歩取り~主流の青野流~

去年に引き続き青野流が主戦場。後手からも様々な対抗手段があり善戦しているものの、やはり先手青野流は強力です。

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ここから△8二飛と引いて受け身で指す指し方もありますが、後手も△7六飛と横歩を掠める取る対策が有力です。

 

△5二玉▲3六歩△7六飛▲7七角

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プロの実践ではここから△7四飛のぶつや、上図から△同角成▲同桂△5五角などが指されており後手からも面白い変化があります。

ただ現状は角換わりや相掛かりが後手の有力作戦であるためわざわざ横歩取りを指す必要がないというのが後手の認識です。

矢倉~土井矢倉と急戦矢倉~

先手は急戦を警戒し、早期に飛車先を決めて後手の態度を聞くのが主流。

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後手からの急戦を警戒し、先手はなるべく▲6六歩は突かずに駒組を進めることで後手からの左美濃急戦や右四間飛車などに対抗。また早期に▲2五歩と飛車先を決めて攻め味を見せるのが矢倉系の主流で急戦矢倉が多く指されました。

土居矢倉

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2018年の叡王戦で当時の高見6段が採用し話題になった土居矢倉。それからも少しずつ指されており、2019年の現在でも指されています。

主なメリットは

1、通常の矢倉より短手数で組め、先行しやすい

2、バランス重視で角交換に強い。

 一つの有力な囲いとして認識されている印象です

 

特に2019年は土居矢倉の流行に伴い急戦矢倉等が多く指されるようなりました。土井矢倉は矢倉再流行のきっかけの一つでもあります。

雁木~急戦を倒せるか~

先手雁木は相雁木になると手詰まりになりやすく、先手が避ける傾向にあります。

そのため雁木系の将棋では後手雁木が一つのテーマです。

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後手雁木に対して、プロではほとんどが上図の▲3七銀からの早繰り銀を選択しています。この形を後手雁木が克服できるかが、後手雁木最大のテーマでしょう。

これに対して先手は左美濃の陣形か▲8八銀▲7八玉型の囲いで行くかの選択肢があり、これに対して後手雁木がどのように対抗していくかがカギです。

 

左美濃型

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先手早繰り銀に対して後手雁木側の対策で多く見られたのが後手の角頭を目標に攻め合いを目指す形です。

 

△7三銀▲3四歩△同銀▲3八飛

△6四銀▲2六銀△4三銀▲3五銀

△7五歩

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上図のような進行が多く指されており、先手の銀はほぼ捌け形ですが、後手も居玉なのが逆にいい位置で角頭攻めの楽しみもあります。

 

▲8八銀▲7八玉型

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こちらは▲8八銀▲7八玉型でこちらもプロの実践でも多く見られました。

 

△7五歩▲同歩△7二飛▲3四歩

△同銀▲6六角△7六歩▲7八飛

△7三銀▲4六銀△4三銀▲3五銀

△6四銀

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▲8八銀7八玉型に対して雁木側は袖飛車から攻める手法が多くみられました。先手の捌けた銀VS玉頭の拠点というお互いの主張があり、従来の受け一方の展開よりは後手としても面白い作戦だと思います。

振り飛車

中飛車~振り飛車のエース~

振り飛車系の中で採用率がダントツで高かったのが先手中飛車です。居飛車側の対策として最も印象に残っているのはやはり角道不突き左美濃でしょう。

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上図は銀対抗型でまずは後手側の成功例を見ていきます。

 

△3四歩▲3八銀△4四歩▲4六歩

△4三金

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この形が後手角道不突き左美濃の理想形で五筋を形よく受けつつ、攻め味もあり後手側としては満足の駒組になります。

 

そんな中、先手中飛車側の対策として出てきたのが5筋を保留する形です。

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後手側から同じように△7三銀~△6四銀には▲6六歩から歩越しには歩で対抗の格言通りの受けで問題なく、角道不突き左美濃対策として多く指されました。

 

主流の後手超速

先手中飛車に対しての後手側の対策として後手番での超速が多く指されました。

その中でも最も印象的だった一局を紹介します。

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▲4六歩は▲5八飛型のまま戦うことを視野に入れている作戦です。ここで後手の手番で無難に指すなら△7三桂、△5二金などがあります。

次の手がなるほどの一手でした。

 

△8六歩

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この手が相手の指し手によって指し方を変える高等戦術でした。棋聖戦の藤井竹内戦でも現れた手順で先手中飛車だけでなく後手ゴキゲン中飛車にも使える汎用性の高い仕掛けです。

上図から▲同角には中央が薄くなるので△5五銀左▲同銀△同銀▲5三角成△8七飛成で飛車を成りこみ後手が良くなります。

本譜の進行は▲同歩でした、これには桂馬を使って攻めていくのが本譜の進行です。また将来の▲9五角を消している点など単に△7三桂と跳ねるより得をしています。この進行は定跡らしいのですが私は知りませんでした。

 

▲同歩△7三桂▲7八金△6五桂

▲8八角△8六飛▲8七歩△8五飛

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△8九飛と引くプロの前例もありますが、△8五飛と引くのが桂馬に紐を付けつつ将来の△7五歩の攻めも見ています。具体的には先手からの▲7七桂ぶつけに△同桂成▲同角△7五歩の角頭攻めを用意しているのと本譜の進行の攻め筋で出てくる五筋方面にも効かしている点です。

 

▲4七銀△5二金▲5六銀△5五銀右

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五筋に援軍を送った手に対してそこで△5五銀右とぶつけました。駒損ながら△6九銀の割打ちの筋もあり、この局面は後手が優勢です

四間飛車~苦難の時代~

数々の強敵により四間飛車の採用率が激減。

端歩受け穴熊

 端歩を受けることで振り飛車の切り札であった端攻めを緩和し、より穴熊の遠さ、堅さが生きるようなりました。

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上図は端歩受け穴熊が認知されるようになった一局でNHK杯 増田西田戦の進行です。テレビ対局ということもあり記憶に残っている方も多いと思います。

 

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しかし端歩を受けたことにより、居飛車側は手が遅れる計算になります。藤井システムのような急戦にどう立ち向かうのか。

 

△8五桂▲6八角△6五歩▲7八玉

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桂馬を跳ねる速攻にはこの▲7八玉と寄る手が対藤井システムでよく出てくる手筋で後手の前のめりな攻めをいなしています。ここで△5四銀と溜める手は▲8八銀として先手玉の安定度が段違いになります。そのため後手が一気に攻める手を見ていきます。

 

△9五歩▲同歩△4六歩▲同歩

△6六歩▲同銀△5四銀▲8八銀

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やはり受けながら▲8八銀の一手が入ることで先手陣がしっかりしました。ただしここからも後手からの攻めが続く難しい戦いが続きます。

アマチュア目線から見ていくら有利でもやはり受け続ける展開は攻めているほうが勝ちきりやすく四間飛車の土俵で戦っている感があります。そのため居飛車側を持って指すなら以下の二つの方が指しやすいと個人的に思いました。

ミレニアム

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ミレニアムはプロ間でも指されていますが、藤井システム等の急戦策を回避しつつ玉を安全に固く囲えることからアマチュア間でも多く指されました。

 

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また角と桂馬の配置がよく、端攻めを狙えることから対穴熊に対しても互角以上に戦うことが可能で、ミレニアムの優秀性が伺えます。

エルモ囲い

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エルモ囲いは従来の急戦と比べて玉が固く急戦の可能性を大きく広げることになりました。エルモ囲いは▲7九の金が攻められにくく、囲い崩しのセオリーである金が攻められにくいのが強みの一つ。

 

様々なエルモ囲い

またエルモ囲いには様々なバリエーションがあり、それぞれが違った特徴を持ちます。

エルモ囲い▲4八金型

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玉の堅さ、陣形のバランス、攻め味の豊富さが高次元で纏まっており、▲4五歩早仕掛け、斜め棒銀、亜急戦を使い分けることが出来る。対振り急戦の新しいスタンダードになる可能性を秘めた形。

エルモ囲い▲5九金型

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エルモ囲いで最も堅い形で、状況によっては振り飛車の美濃囲い以上の堅さになることがあり、攻める居飛車にとってまさに鬼に金棒といって過言ではない。

エルモ囲い▲5六金型

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五筋の歩を角で交換した後、▲4八金~▲4七金~▲5六金と中央に繰り出していく形でプロの実践例はそれほど多くなく、エルモ囲いで力戦に持ち込める形。

三間飛車~穴熊を克服、石田流で攻める~

居飛車左美濃

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三間飛車の居飛車穴熊対策には強力なものが多く、2019年下半期では居飛車側が左美濃に組む将棋が多くみられました。これに対して三間飛車側は石田流に組み替えていく将棋を目指して互角の戦いを繰り広げました。

 

対石田流エルモ囲い

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対石田流に対してはプロ間では△1四歩対策が主流ですが、エルモ囲いの登場により右四間飛車と組み合わせた形が指されており相性のよさから石田流の対策の一つとして作戦の幅を広げました。

館長コメント

居飛車は角換わりと相掛かりが、振り飛車は中飛車と三間飛車が主戦場でした。

相居飛車では矢倉が徐々に復活傾向で、角換わりでは▲4八金2九飛型一色といった感じです。

一昔前はそれほど序盤に神経質にならなくてもよかった環境でしたが、現代将棋では序盤から常に主導権を握ろうとする動きが多く、序盤から一手一手気の抜けない将棋が増えた印象です。

去年のまとめはこちら

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